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織物工場で出た残糸がカンボジアの子どもたちの支援に
カンボジアの子どもたちに残糸を送る活動は、SDGsの「1.貧困をなくそう」「4.質の高い教育をみんなに」といった多くの目標にまたがっていると思います。具体的な取り組みを聞かせてください。
当社の丹後織物研究所では、和装婚礼衣装などのデザインから紋紙(デザインのパターンに従って穴を開けた紙。現在はデータ化して織機に読み込ませて動かすことが多い)の制作、織り、検品までを一貫して行っています。金銀糸を含めたシルクの色糸を使っていますが、生地を織る時に糸が余ってしまうんですね。1反あたり100~200グラムの残糸が出てしまいます。それをNPO法人「サンタピアップ」に提供し、カンボジアの子どもたちに活用してもらっています。
カンボジアでは生活のために、学校に行かずに働く子どもも多いです。サンタピアップはカンボジア西部のポイペトを拠点に、子どもたちにピアスやミサンガなどを作るための糸や金具を提供し、製品を買い取って日本で販売する「子どもの未来を紡ぐ糸」プロジェクトに取り組んでいます。丹後の糸が、子どもたちが継続して収入を得るために役立っているのです。子どもたちが作った製品はポップアップストアや百貨店などで販売されるほか、京丹後市のふるさと納税の返礼品にもなっています。
当社はカンボジアに残糸を送る以外に、地域の共同作業所に依頼して、製造の工程で出た生地の端切れでコースターを作ってもらっています。こちらは販売していませんが、当社の記念品として活用しています。生地の製造には質の高い素材を使っていますので、なるべく無駄にならないようにしています。
NPOの活動や海外への支援について考えるようになった
サンタピアップへの残糸の提供は、どのようにして始まりましたか。
サンタピアップの活動を知った京丹後市在住の方からお話をいただいたのがきっかけです。当社では生地の製造工程でシルクの残糸が出るという話をしたら、とても興味を持っていただいて、サンタピアップに提供するという話になりました。生地を織る工程では、天候や素材によってどうしてもロスが出てしまいます。当社としても、それを何かに活用できないかとずっと考えていたんです。
カンボジアに残糸を送る取り組みを続けてきて、どのような気づきや変化がありましたか。
当社の事業である和装婚礼衣装は、日本のお客様がほとんどです。ですから仕事上では、あまり海外に目を向ける機会がありませんでした。それがカンボジアに糸を送ることになり、現地からは子どもたちの写真や作ったアクセサリーが送られてくるようになりました。カンボジアとつながりができたことによって、改めて現地の状況や価値観について、自分が考えてもいなかったようなことが起きているんだなと知りました。勉強になることも多く、視野が広がりましたね。
NPOの活動や、海外の子どもたちへの就学支援や就労支援についても考えることが多くなりました。日常生活でも「この団体はどういう活動をしているんだろう」、「この国にはどんな課題があるんだろう」と興味を持ち、調べています。必ずしも仕事につながるわけではないのですが、自分の視野が広がり、仕事上でもいろいろな視点から考えることができています。
現地の方たちと交流することはありますか。
直接話したことはありませんが、今後機会があれば話してみたいです。現地に行って残糸が活用されている現場を見たいという思いもあります。
カンボジアの子どもたちからは、「夢」というテーマで描いた絵が画像データで送られてきました。社内で「織物にしてみようか」という話になり、データをもとに織物を作りました。これも基本的には残糸を使いましたが、面白いものに仕上がったと思います。なかなかこうした図柄を織る機会がないので、新鮮でした。それを「壁に飾ってね」と現地に送ったら、「僕のうちには壁がないから」と返ってきたことに驚きました。本当に考えていなかった世界があるんだなと。
SDGsを意識しながらものづくりに取り組む
今後の展開やSDGsについて考えていることを聞かせてください。
織物業界では、担い手の高齢化や後継者不足などの課題があります。当社が担う婚礼衣装についても、結婚式の規模が縮小する、挙式を見送るなどコロナ禍の影響を受けています。こうした問題は1社だけでは解決できませんので、同業者を含めさまざまな方たちと協力して取り組んでいきたいです。
また、ここ数年でSDGsの理念や目標が広がってきましたが、それは当たり前のことというか、みんなが気持ちよく生きていく上でみんなが考えていかなければいけないことだと思っています。ものづくりをしている立場としては、もちろん売れるものを作らなければいけないのですが、SDGsは完全に切り離せるものではありません。SDGsを掲げることで興味を持ってもらえることもあります。ですから、SDGsを意識しながらものづくりを続けていきたいですね。