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コミュニティツーリズムをとおして、丹後の文化や智慧を100年後まで残るものに
Tangonianが取り組むコミュニティツーリズムとは、どんなことですか。
長瀬 「コミュニティツーリズム」とは、一般的に、地域の文化や歴史、そこに住む人たちの暮らしの智慧そのものを旅のコンテンツとして巡り、地域の暮らしや産業を持続可能な形で残していくためのツーリズムの形です。その中でも私たちは、海の京都エリアに根付いている産業や地域に暮らす人々の生き方に注目し、それらを100年後まで残るものにすることを目的に、旅人が訪問先の地域の魅力を再発見できるような地域の内と外を繋ぐ旅のデザインを行っています。それを実現するために、地域の事業者や自治体と連携しながら、以下の4つの柱で事業を行っています。
「LOCAL WISDOM TOUR」
旅人の興味・関心に合わせて旅先をコーディネートし、丹後の「地域の智慧」を巡り紹介するプライベートツアー。提携している農家さんや漁師さん、伝統産業の職人さんなどを訪ねる体験型のツアーを実施。
「STUDY &TRAINING TOUR」
主に教育機関や企業に向けた地域資源探求型ツアー。丹後の一次産業や伝統産業の事業者から直接学ぶことができるのが強み。事前学習から始まり、丹後でのリサーチや体験を経て、参加者のその後の活動の促進や新しいアイデアの発見に繋げる。
「LOCAL GUIDE TRAINING COURCE」
国内外の旅人に地域の魅力を伝えることができる人材を育成する“インバウンドローカルガイド養成講座”を行う。OJT型の講座で、座学や実地研修を通して必要なスキル・知識を身に付ける。
「LOCAL BUSINESS CO-CREATION」
実際に新規事業や観光コンテンツの創出を目指すプログラム。地域の事業者と、自治体、民間企業、教育機関などをつなげて新しいプロジェクトを生み出すことをゴールとして伴走支援を行う。
大量消費的な観光ではできない、“ローカル”を知る旅のデザインで地域の課題に挑戦
丹後地域の暮らしや産業と、コミュニティツーリズムに目を向けたきっかけは何だったのですか。
長瀬 私自身、丹後にUターンしてからの生活の中で、丹後地域で情熱を持ってものづくりや事業に取り組んでいる人や、昔から続く多様な文化や暮らしの智慧が数え切れないほど存在することを知りました。そういった“ローカル”なものに出会う日々は本当におもしろく刺激的で、もっと多くの人にも同じように各地を巡り、地域と関わりながら知ってほしいと思うようになりました。
それと同時に、丹後の一次産業や伝統産業は、現代のライフスタイルの変化や継ぎ手不足などが原因で、多くは衰退産業であるという背景も知りました。放っておけば時間と共に文化や智慧は消えていく可能性があり、それは長期的に見ればこの地域そのものを失うことなのです。そういった課題に対し、丹後の文化や産業をこの先も持続して残していくために、“ローカル”を巡るツーリズムという切り口で、何か取り組めたらと考えたんです。
地域の観光について、どんな課題があると考えていますか。
長瀬 従来より行われているような、大型バスに乗って都市部から日帰りで観光をするというスタイルの観光も丹後の各地でも多く実施されていますが、そういった観光では一時的な大量消費に対応できるキャパシティを持った観光地や事業者のみしか巡ることができず、たくさんの魅力を持った小さな事業者が地域外の人に知ってもらう機会が増えません。また、一箇所に集中的に観光客が集まってしまうと、ゴミのポイ捨てや一時的な混雑など、地元住民が困ったりトラブルになることも珍しくはありません。さらに自治体としても、地域に入って学びを得たり人や文化に出会う旅を求める観光客に対し、そのニーズを満たすことができていないといった課題がありました。
そういった課題に対して、小さなグループで興味関心に合わせて訪問先を決め、地元の人と暮らしにゆっくりと触れられる旅の提案は、持続性の面でも、参加者・受け入れ側のニーズへの対応の面でも、丹後地域にとって相性が良く、とても有効なものだと思っています。
多様な参加者、プログラム、アウトプット。地域の弱さも見せながら人と地域をより良くを一緒に創るコミュニティツーリズム
どんな方々が、各プログラムに参加していますか。
岸 Tangonianが携わる旅人やプログラムへの参加者は、国籍、性別、世代を問わないさまざまなバックグラウンドを持った多様な方々ですが、一点共通しているのは、とても知的好奇心が強い方々であるということです。作り手から直接話を聞きたい、この目で見て手で触れてみたいという積極性や、より良い生き方や暮らし、自分の幸せを求める価値観を持っていると感じます。そして、Tangonianで巡る事業者さんたちも、丹後の魅力や自分たちのしていることを「知ってほしい」という想いが強い方々で、両者のニーズがうまく調和していると感じます。
今までに多くのプログラムを実施して、印象的だったエピソードはありますか。
岸 大学生たちのゼミのフィールドワークの伴走で、事前学習から現地でのフィールドワーク、リサーチ、研究発表までを担当した際のことなのですが、正直最初の頃は大学生の様子を見て、主体性が足りないな、他人事として見ているな、と感じていました。それに対し喝を入れたこともあったほどです(笑)。ところが、大学生たちが事業者さんの熱意に触れ、地域のリアルな課題について学ぶ中で、どんどん様子が変化していきました。地域の課題と自分たちの将来とのつながりを感じ、自分たちに何ができるのか、どうしたら今後もこの魅力を残していけるのかと、真剣に考え学ぶ姿勢に変わっていったのです。中にはプログラム終了後もプライベートで丹後に来て、地域行事に自ら企画出店する子や、長期休みに地域事業者のもとへお手伝いにくる子など複数いて、本当にうれしかったです。このように地域の美しい部分だけでなく、課題など「弱さ」も見せることで、身近に自分ごととして京丹後を感じてもらえると考えています。
Tangonianのプログラムで、外国の旅人や事業者とのつながりもたくさん生まれていますよね。
長瀬 海外の教育機関や自治体、民間企業でも、コミュニティツーリズムを活用した学習や新規事業の立ち上げを目指すプログラムが多く存在し、それらとの連携にも力を入れています。
京都市の京北にあるROOTSという会社との共同プログラムで、香港理工大学の学生と宮津市の海洋高校の学生をオンラインでつなぎ、日本の漁業の課題と維持方法について意見交換・アイデア交換を行ったことがありました。香港側からは、地域への経済的なメリットもありながら、水産資源の持続にもつながる事業の提案が出てきました。その実現可能性や地域と人へのメリットなど総合的な視点は、宮津の高校生の大きな学びと視野の広がりにつながりました。
このように、両者がつながっていなければ存在しなかった学びを生むことができ、学生など若い人たちの働き方や問題意識にもアプローチができることも、コミュニティツーリズムをベースとしたプログラムの強みです。
「100年後」に残したい、まちの姿
コミュニティツーリズムを通して、どんな地域になっていくことを望んでいますか。
長瀬 人と人、地域と地域をつなぐことでまだまだ一般的には知られていない地域の魅力を掘り起こしたり、それによって地元で暮らす人々の生きがいや地域への誇らしさが生まれることが大切だと感じています。コミュニティツーリズムで、地域の内側から活力が出てくるような働きかけをしていきたいです。
今まで地域の中の視点でしか語られてこなかった地域性や課題が、よりグローバルな視点で見てみると新たな魅力を発見することができたり、課題解決やプラスに変えていく動きが生まれてくるのだと、事業を通して強く感じています。私たちも事業者さんたちにお世話になって勉強しながら、同じパッションを持って、「地域の魅力を100年後まで残したい」と同じ方向を向いた方々との出会いや仕事に力を注いでいけたらと思います。