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見た目にもこだわった「やわらかメニュー」
SDGsは「3.すべての人に健康と福祉を」で、あらゆる人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進することを目標に掲げています。かさい食堂やSeat Tableは、どのようなことに取り組んでいますか。
言語聴覚士としてこれまで学んできたことや経験を生かして、2022年から、食べ物を舌や歯茎でつぶせるほどのやわらかさに調理した「やわらかメニュー」を提供しています。かさい食堂の味を生かした巻きずしやカツ丼、ウナギ丼のほか、のどごしの良い栗ようかん、口の中で溶けるほどのやわらかさにしたおはぎや桜餅など季節のお菓子も販売しています。2023年のクリスマス時期には、かぼちゃグラタンやクリームコロッケ、サラダ巻きなどを入れた「クリスマスランチボックス」を作りました。
専用の調理器を使ったり、さまざまな調理方法を利用して作っています。一般の方向けの食事とほぼ同じ見た目に仕上げられるのが特徴です。やわらかさは、少しかむことが難しい方向け、のどが細くなって飲み込むのが難しい方向けなど、食べられる方の力に合わせて調整します。メニューは要予約です。ご注文をいただいた際に、お体の状態や普段食べていらっしゃるものなどを確認し、安全に、安心して食べていただけるメニューを作ります。かまなくてもよいペースト食や、場所にもよりますが宅配にも対応しています。
言語聴覚士として働いた経験が、メニュー開発のきっかけに
なぜ「やわらかメニュー」を開発しようと考えたのでしょうか。
私は約16年間、病院などで言語聴覚士として働いてきて、嚥下(えんげ)障害、かむことや飲み込むことが難しくなった方たちと会ってきました。これまで当たり前に食べられていた物が食べられなくなる、食べたいのに食べる力がなくなるという方たちと接する中で、「どんな人にとっても、食べることは生きる力になる」ということを感じていたんですね。そこから、食を通して、最後まで生きる力や人とのつながりが持てる社会ができたらいいなと考えるようになりました。
そして、患者さんが「食べたい」と言われるものが、お寿司やウナギ、お餅など、食べてはいけないと言われるものばかりだったんです。こうした声を聞いて、数年前からかさい食堂で出しているお寿司を、嚥下障害がある方にも食べてもらいたいと考えるようになりました。おいしいですし、私も大好きなんですよ。ただ、病院などで働いていて、なかなかメニューの開発などに割ける時間がありませんでした。そこで、フリーランスの言語聴覚士になり、2022年に「Seat Table」を起業しました。
手作り市などに出展し、興味を持ってもらうための取り組みも
「やわらかメニュー」を食べた方の反応はいかがですか。
喜んでいただけていますね。以前、胃ろう(胃に開けた穴から専用のチューブで栄養を補給する方法)をされていて、口からあまり食べられない方に食事を提供した際に、「口から味わえる」ことをすごく喜んでいただけました。
最終的にはお店で食事を楽しんでいただきたいですが、外食が難しい方には、まずはご自宅で、家族と一緒に同じものを同じ食卓で味わっていただきたい。同じものを食べると、それについての会話が生まれますよね。そこが一番大事です。宅配の場合は食べている姿を見られませんが、「食べられたよ」と言っていただけるとほっとします。食べた方の笑顔の写真を送ってきてくれると、本当にうれしいですね。
起業されて、2024年5月で2年になります。振り返って、どのようなことを感じていますか。
最初はなかなか興味を持ってもらえませんでした。身近にうまく食べられない人がいる、または自分がそういう身にならないと、「やわらかい食べ物を」と言われてもピンと来ない。嚥下食や介護食って、家族や自分が食べられなくなって、初めて出会うものなのかなと思います。
そうではなくて、食べられない状態じゃない人にも、世の中に、この地域にこういう食事があるということを知ってほしいです。ですから2023年から、手作り市への出展などまちに出て「やわらかメニュー」を知ってもらう取り組みをしています。やわらかメニューについて知り、周りの食べられない人のことを考えてもらうきっかけづくりができたらいいなと考えています。
「やわらかメニュー」を丹後に人を呼び込むきっかけにしたい
今後の目標や取り組みたいことなどについて聞かせてください。
地域の資源を生かした「やわらかメニュー」を作りたいですね。かさい食堂では、やわらかくした郷土料理「丹後ばらずし」や古代米を使った桜餅を提供しています。この地のものを使って、この地にいる人たちが最後まで口から食事をできるようにしたいと思っています。
それは、私だけが取り組んでいても広がりません。ですから、私が地元のさまざまな食材を使わせていただくことで、そこに関係する方々にも「やわらかメニュー」を意識していただき、協働で事業ができたらいいなと思っています。今後、丹後の人口が減っていく中で、(食べられない人でも)「丹後にこんなに食べられるものがあるんだ」となれば、府外から人を呼び込むきっかけにもなりますよね。ですから、かさい食堂がやっていることをやってみたいなと思ってくれるお店が増えればいいなと思っています。