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「できることから始めてみる」等身大の取り組みスタイル
現在SDGsで取り組んでいることは?
もともと新しいことに取り組むことが好きで、SDGsについても自分たちにできることからやってみて、その中から合うものを見つけて継続していくことを大切にしています。
まず初めに取り掛かったのは、プラ製品の使用削減です。刺身のパックに入れていたプラ製の花飾りをやめました。商品の見栄えのために昔から使用していましたが、これも廃棄されるだけのものだと考え、年に約1万個使用していたのをゼロにしました。また、通販からの注文が年間に数千件入るのですが、発送に使用する発泡スチロール製のトレーも紙製のものに変更したり、漁業者が魚を入れて持ってくる発泡スチロールのコンテナを使い捨てせずにきれいなものは持ち帰って再利用してもらったり、店では代わりに保冷コンテナを導入したりしています。どうしても必要なときは使いますが、「できるだけ使わない」という意識をしています。
地元の小・中学生にも食育や職場体験の一環で関わっていますよね。
地元の小学校へは、食育の一環として出張授業を行っています。「お魚捌き教室」と呼んでいて、子どもたちが地元産の魚を自分たちで捌いて、お刺身やフライなどにして食べるというプログラムです。その中で、京丹後で獲れる魚の種類や漁業の現状、自然と命の大切さを伝え、それらと共存しながら丹後の美しい環境を残していくためにできることを考えてもらいます。
また、地元中学校の企業体験も受け入れていて、地産地消の重要性、環境問題について触れてもらっています。「自然や資源に恵まれている地域を将来にも残していきたいと思う」という声もあり、次の世代との関わりも地域に貢献できることの一つだと思っています。
SDGsと自分たちの関連性の発見
SDGsに取り組んだきっかけは?
私が所属している一般社団法人 京丹後青年会議所でのSDGsへの取り組みをきっかけに、SDGsがどういうものなのかを知り、自分たちの仕事や生活の中でも関連することがたくさんあると気づいたんです。
もともと、魚屋をしていて自分たちの仕事に直結する環境問題や自然の変化は直に感じていました。例えば、再利用が難しいプラスチック製の容器は毎日たくさん使用しますし、自然環境に関しては、海水温や海流の変化などによる漁獲量の減少や獲れる魚の種類の変化などですね。
それから、今ある水産資源や豊かな食文化を残していくために、地域の子どもたちの将来についてもできることはないかと考えました。そういったことのすべてが、私たちがここで生活し続けていくことに繋がっているんです。
水産資源を扱っている上で、食品ロスへの意識もされていますね。
食材を無駄にしないために、仕入れから意識しています。お店に商品をたくさん並べておくことも大切ですが、仕入れすぎて余って廃棄するということができる限り少なくなるようにしています。それには地元の漁師との連携も大切で、どんな魚がどれくらい仕入れられるのかということと、お客様が満足してもらえることとのバランスを取るようにしています。
それから、商品にするための魚の処理中に、アラや内臓などの廃棄部分はどうしても出てきます。それを無駄にしないために、コンポストの利用にも取り組みました。コンポストに詳しい地元の方にノウハウを教わって制作してみると、意外と簡単にできました。廃棄する部分をコンポストに入れておくと、一週間ほどで土になります。その土に種を撒いて野菜を育ててみると、ものすごい勢いで育ったので、その野菜を店で販売もしました。想定外の副産物でしたが、普段は捨てていたものを活用しながら自然の循環を体感することができました。
取り組みの重要性を、一緒に働く人々と共有することが大切
SDGsの取り組みで難しいなと感じることもあります。私は外に出て活動する機会が多いため、新しい情報や世の中の流れに触れることができるので、SDGsについても意識を持つことができたのですが、従業員にその重要性を感じて共感してもらうことが、一緒に取り組んでいく中で大切だなと感じています。そのために、店内での活動だけではなく、丹後地域でビーチクリーンがあれば行ってもらったりもしています。同じ意識を持てるように、そういったことも地道にやっていきたいですね。
また、環境負荷をかけない選択をすることと、そのためにかかるコストのバランスも大切なポイントだと感じています。例えばプラ製品を使っていれば1つ数円で済む包装が、紙製品に替えることで1つ30円くらいかかっています。量が増えればコストもかかるため、運営面でも無理なくできるという点も大切ですね。
言われたことをやる、という姿勢ではなく、どんな問題に対して取り組んでいるのか、それをすることでどんな良いことがあって、将来にどんな影響があるのかをひとりひとりが考えて行動していける職場にしていきたいと思っています。
発信をしながら、取り組みに共感して選んでもらえる運営を
取り組みを始めてから、どんな変化がありましたか。
普段から、インスタグラムなどで地域の方々や遠くのお客様へ商品や仕事風景の発信をしているのですが、パッケージの変更や出張授業についての投稿をすると、賛同する声をいただくことが増えました。店内でもSDGsへの取り組みの張り紙をしていると、「こういう取り組みをしているお店からは安心して買い物ができる」と言ってくださる方もいて、環境への配慮を意識しているお客様から選んでもらえるお店にしたいという気持ちがさらに強くなりました。
今後、挑戦していきたいことはありますか。
長期的に挑戦してみたいと思うのは、安定的な漁を持続していくための漁礁づくりです。魚の棲み家をつくることで、もともといた魚たちが戻ってきて定着してくれたり、海の環境の悪化を防ぐことにも繋がると考えています。それが実現すれば、魚の生態系、漁業の営み、私たちの商いがうまく回っていい循環が生まれると思います。ただし、これは橘商店だけでは取り組めることではなく、地域として協力して計画的に実施していく必要があります。そのためにも、自分たちの日常の取り組みを地域住民の方々や漁業関連の方々に少しずつでも知ってもらい共感してもらうことが必要です。
小さいことでもまずはやってみるという今までのスタイルで取り組み続けるとともに、それがじわじわと京丹後の地域に広がっていって、みんなで手を取り合って将来へ繋いでいける街にしていきたいです。