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福利厚生制度を利用しやすいよう、あえて人員に余裕を持たせる
積進では、ジェンダー平等や働きがい・経済成長、パートナーシップなどSDGsのさまざまな目標に関する取り組みを進めています。職場づくりにおいては、どのようなことに取り組んでいますか。
子育て中の人をイメージした勤務時間の短いパート社員、そこからスキルアップする準社員制度、全社員が利用可能なスライド勤務制度、2時間有給制度、新型コロナワクチン接種休暇、リフレッシュ休暇制度など、さまざまな働き方に関する制度を整備しています。
ただ、こうした制度(仕組み)だけを準備しても、人員に余力がなければ有効活用されなくなってしまいます。このため、必要最低限の人員をそろえるという「筋肉質の組織」にせず、あえて人員に余裕を持たせた「脂肪を付けた組織」にしています。そして、こうした体制を維持するために、参入障壁が高い医療機器や航空機部品、微細な技術が要求される高級時計のムーブメント(時計を動かす機械の部分)など、競合他社が少ない分野や製品に特化するなどして、付加価値(粗利率)の高い収益構造にしています。
女性社員が徐々に現場で受け入れられ、貴重な戦力に
2011年から工場勤務の女性社員採用をスタートし、現在では多くの女性が活躍しています。なぜ女性社員を採用しようと考えたのでしょうか。
当社のような中小企業に最も必要なことは「他社との差別化」ができる技術だと考えています。そして、高度な技術を開発・活用するためには、技術者が研究や開発に専念できる環境づくりが必要になってきます。しかし以前は、パソコンによる文書作成や既に標準化されている機械操作などの作業も技術者が担当しており、研究や開発のための時間が十分に取れない状態でした。こうしたサポート業務を担う男性を募集しても、なかなか思うように人材が集まりませんでした。そこで、これまではターゲットにされていなかった女性に着目し、採用活動に取り組むことにしたのです。
社内では当時、女性社員採用について抵抗する声もありましたが、私はぶれることなく採用を進めていきました。こうして採用を続けるうちに、現場の男性社員の間に「上手に仕事を教えて、職場の戦力にしよう」という考えが広まり、採用した女性に対して、優しく丁寧に教育してくれるようになりました。
また、女性社員もそれに応えて成長し、期待以上の働きをしてくれるようになりました。現場の男性社員が「どうせできない」と決めつけていたことも、すぐに吸収して実践してくれる。「足手まといになるのではないか」と思い込んでいたのに、うまく教えると心強い存在になる。採用を始めて3年目ぐらいには、こうした気づきが男性社員の間に浸透し、誰も文句を言わなくなりました。
将来的な人材獲得を見据え、小中学校に出前講座も
積進では、こうした働きやすい職場づくりのほか、小中学生を対象に授業を行う「TANGO子ども未来プロジェクト」出前講座にも参加しています。そこには、どのような狙いがあるのでしょうか。
「TANGO子ども未来プロジェクト」出前講座は、丹後の地元企業がどのような社会貢献をしているのかについて、要望のあった小中学校で授業を行う取り組みです。丹後機械工業協同組合と京都府丹後教育局でつくるプロジェクトの推進協議会が実施しています。当社は2018年から参加しています。
学生が将来の進路を考える時は、消費者に向けた事業が中心の企業に目が向きがちで、当社のような企業間取引を行う企業は選択肢に入りません。また、丹後から都市部に進学し、周囲の影響もあって「丹後には働く場所がない」と思い込んでしまう学生もいます。出前講座を通して、こうした状況を少しでも打破していきたいと考えています。将来的なUターン人材獲得に向けた長い道のりになるかもしれませんが、長期的スパンで考えて、できる限り長く続けたいと思っています。
こうしたSDGsに関連する取り組みを続けてきて、社内にどのような気づきや変化がありましたか。
特にSDGsを意識して取り組んだわけではなく、これからもSDGsを前面に出してアピールすることはないでしょう。しかし、2011年から女性社員採用などに取り組んできて、振り返ると、社内に「多様性」とそれを違和感なく受け入れる「寛容さ」が浸透してきたのではないかと思います。
以前は社員の100%が地元出身者でしたが、現在では新入社員の半数は他の地域から来ています。高度外国人材として採用した外国籍(中国、韓国)の社員も2人います。20~30代の社員のうち、女性が占める割合は約3分の2となりました。モノづくりの現場で、これだけ若手の女性社員比率が高い工場は全国的に見ても珍しいのではないでしょうか。
社員がモノづくりや技術を楽しめる企業を目指す
今後の展開や目指す将来像について聞かせてください。
新入社員や未経験者への教育についてはそれなりの体制ができていると思っていますが、若手からベテランまでを含めた全社的な教育体制として考えると、まだまだ目指すレベルには達していません。このため3年前からは一部の社員を対象にプログラミング言語の研修をスタートし、2年前からは全社的に展開してきました。一部では目に見える成果も出てきています。こうしたことを含めて、教育内容や体制をより強固なものにしていきたいです。
また、当社では付加価値の高い仕事を受注することで、人員体制に余力を持たせていますが、それは第一に余裕を持って新しい技術に取り組むためです。新しい取り組みを始める時に、いちいち費用対効果を計算しているようでは、技術者もモノづくりや技術を楽しむ余裕がありません。利益追求は企業の基本ですが、社員がモノづくりや技術を楽しめる企業を目指すことも経営の柱と考え、これからもそれを追い求めていきたいです。