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公共工事で発生する残土で荒廃農地の問題を解決する
SDGsは「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」で、資源をよりむだなく使えるようにし、インフラや産業を持続可能なものにするなどの目標を掲げています。堀さんやマルキ建設が進めている取り組みについて聞かせてください。
公共工事で発生する建設残土(公共残土)で荒廃農地を整備し、作物を栽培しようという取り組みです。例えば、山と山の間を切り開いたり、トンネルを掘ったりする工事では、多くの土砂を取り除きます。また一方で、日本には、後継者不足や、谷など使いにくい形状をしているといった理由で使われなくなり、荒れ果てた農地がたくさんあります。こうした農地に、工事で発生した土砂を入れて建設機械などで使いやすい形に整えて農業をし、そこで収穫した作物や作物を原料にした製品を販売しようという試みです。
公共工事で発生する残土は、一般的にどのように処理されていますか。
工事はできるだけ効率的に行いますし、全国的に見ると、発生した土砂の約8割は土地の造成などで再利用されています。残りの約2割は産業廃棄物として、自治体の認可を得た残土処分場に運ばれ捨てられます。この量が年間約5800立方メートル、東京ドーム47杯分ぐらいあると言われています。
残土処分場は土砂でいっぱいになったら整備して植林しますが、土砂は有効利用されません。そして今、各地の残土処分場で埋め立てが進み、処分場が不足してきています。捨てるのにも費用がかかることから、不法投棄してしまうという問題もあります。また、残土処分場もきちんと整備しないと災害を引き起こす可能性があります。2021年に静岡県熱海市で発生した土石流災害は、不適切な盛り土などが原因とされています。今回の取り組みは、こうした問題の解決につながるのではないかと考えています。
アトツギ甲子園をきっかけに、事業化が動き出した
いつ頃から、公共残土の活用について取り組み始めたのでしょうか。
公共残土の荒廃農地への活用自体は、だいぶ前から考えていました。会社として残土を小規模で受け入れることもしていましたが、大きく事業化はしていませんでした。アトツギ甲子園への応募をきっかけに、昨年10月ぐらいから構想がブラッシュアップしていきましたね。アトツギ甲子園では、「公共残土で地域と食卓を豊かに」というテーマで、公共残土を使って整備した荒廃農地で稲作を行い、収穫した米から米粉を生産・販売するというアイデアを発表しました。
なぜアトツギ甲子園に応募しようと考えたのでしょうか。
私は京都市内の建設会社で働いていた期間も合わせると約10年、建設業の現場監督をしていました。当社は運送業や米作りにも取り組んでいますが、私は入社後も、こうした事業に携わってきませんでした。それで、これらの事業についても勉強していかないといけないと考え、京都信用保証協会が主催する事業継承支援プログラム「京都府北部アトツギベンチャー道場」に参加することにしたのです。
プログラムで事業に成功している後継ぎ経営者らの話を聞くうちに、「このままではいけない」とやる気が出てきました。そうするうちにアトツギ甲子園のことを知り、応募しました。入札で自治体などの工事の施工業者が決まるという建設業の構造に危機感を抱き、自分で商品をプロデュースして、価格を決めて販売するというB to Cの事業に憧れていました。そういうものが全部一致したんですね。
アトツギ甲子園には全国から211人が応募。堀さんは全国5カ所で行われる地方大会から、15人が出場する決勝大会に進出し、経済産業大臣賞を受賞しました。
うれしい反面、プレッシャーも感じました。しかし、他にも素晴らしいアイデアがある中で私のアイデアが選ばれたのは意味があることなのではないかと思います。焦らず、等身大の頑張りで進めていきます。
米作りや米粉の製造だけでなく、麦の栽培も検討
現在、どのようにして取り組みを進めていますか。
公共残土を入れる土地の取得や、盛土の許可申請の手続きなどを進めていますが、公共工事が関係してきますし、残土の量も多いので時間がかかります。現在は当社の営農部で取り組んでいますが、一緒にプロジェクトを盛り上げてくれるメンバーも探しています。並行して市場調査も行っています。
アトツギ甲子園では稲作をして、米粉を製造・販売するというアイデアを発表しましたが、さまざまな方にお話を伺ううちに、ビールの原料となる大麦など、他の作物を作るのもよいかもしれないと考えるようになりました。米粉の製造・販売をするためには、製造場所を密閉し、花粉などのアレルゲンを入れないといった厳しい規格をクリアする必要がありますし、製粉機などをそろえると莫大なコストがかかります。ですから視野を広げて、麦の栽培も検討しています。
公共残土活用のスキームを、他の建設業者にも広めていきたい
プロジェクトに取り組んでみて、どのようなことを感じますか。
持続可能な社会に貢献できる作物に付加価値がつくなど、SDGsに価値を見いだそうという社会になってきているなと感じます。取り組みを始めてからは、子どもたちに海で遊んできれいな海を守ろうと思う、お米や米粉で作った食品を食べたり、荒れた田んぼを見たりして米作りをしたいと思うなど、体験を通して持続可能な社会について考えてもらえればいいなと思うようになりました。
今後の展望について聞かせてください。
公共残土を使って荒廃農地をよみがえらせて、そこで農業をするというスキームに、自分が率先して取り組むことで、他の建設業者にも広めていきたいです。この取り組みを多くの方々に知ってもらって、「うちの会社でもできるんじゃないか」と思っていただける事業者を増やしたいですね。さまざまな問題がありますが、焦らず、一つずつ解決していこうと考えています。