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ペットボトルキャップを、カラフルなタイルやアクセサリーに再生する
現在、SDGsについて取り組んでいることは?
地域の有志で結成したチーム「MOYAKO」という団体で、月1回、海のごみを拾ったり、観察したりして、環境について考えるビーチクリーンイベントを開いています。網野町の八丁浜海水浴場で開催していますが、家族連れなどさまざまな人が集まります。回を重ねるごとに参加者が増えてきて、2022年は12回のイベントに合計447人が参加してくれました。
オランダで始まった個人や地域レベルでプラスチックをリサイクルする「Precious Plastic」にも取り組んでいますね。
「Precious Plastic」は、ごみとなったプラスチックをリサイクルして、さまざまなPrecious(貴重な)な体験、商品、コミュニティを生み出す取り組みです。丹後エクスペリエンスでは現在、使用済みのペットボトルキャップからタイルやかご、イヤリングなど7種類の製品を作り、販売しています。工房見学や体験も行っていて、2022年は延べ131人がタイル作りなどに取り組みました。
プラスチックのリサイクルに必要な知識や技術はインターネット上で無料公開されていますし、リサイクルに使う機械も自分で造ります。私は日本で初めてこの取り組みを行った市民工房「ダイナミックラボ」(鹿児島県南さつま市)で機械を制作しました。製品の原料となるペットボトルキャップは、最初は知人らから少しずつ集めていましたが、現在は網野市民局に回収ボックスを置かせてもらっています。
便利に暮らして、ごみも出してきた結果が、海に出てしまった
2019年11月に、家族と京丹後市に移住してきました。きっかけは何だったのでしょうか。
私は生まれも育ちも京都市ですが、田舎が大好きなんです。久美浜町出身の妻と知り合って京丹後市を訪ねると、最高にいいところで。田んぼに囲まれていて自然が豊かで、ご飯もお酒もおいしいし、人も温かい。「こういうところに住みたいな」とシンプルに思いました。仕事を探す中で京丹後市地域おこし協力隊に採用されることになり、11年続けた消防士を辞めて引っ越してきました。
そこからなぜ海のごみに関心を持ったのですか。
自宅が海まで歩いて5分なので、2人の息子と海にばかり行っていました。そこで「ごみが多いな」と気づいたんです。たくさんのごみが砂浜に流れ着いていて。「私みたいな大人が都会で便利に暮らしてきて、ごみもたくさん出してきた結果が海に、自然にこんな形で出ちゃったんだな」と責任を感じました。
地域の人に相談したところ、ビーチクリーンを勧められました。いざやってみると、海を目の前にして体を動かし、やったらやっただけ砂浜がきれいになることが、とても楽しかったんです。そこから定期的にビーチクリーンをするようになりました。
そうして集めたごみを最終処分場に持っていきました。そこに積まれているごみを見て、「山がどんどんごみで埋め尽くされていくのなら、(ビーチクリーンをしても)根本的な問題解決になっていない」と思いました。どうしようか悩んでいた時に、知人が「Precious Plastic」のことを教えてくれたんです。そこから「Precious Plastic」について学び、鹿児島で機械の造り方を教えてもらいました。
「安くて便利な方がいい」から「長く使える物って何だろう」と考えるように
ビーチクリーンや「Precious Plastic」に取り組んできて、どのような気づき、変化がありましたか。
物やごみに、とっても興味を持つようになりました。海のごみを見ていたら、普段自分たちが使っているものがごみになっているんですね。ですから、普段使っている物の素材や強度、使われた後の処理方法などについて考えるようになりました。これまでは安い方がいい、安くて便利な方がいいと思っていたんですが、「長く使える物って何だろう」と考えています。小学生の息子たちに「路上に落ちているごみが最終的に海に行ってしまうんだよ」と言ったら、ごみを見つけて拾って帰ってくることもあります。
丹後を、世界一海のことを学べるまちにしたい
最近では、京丹後市内の小学校の環境学習をはじめ、子どもたちに海のごみについて話す機会も増えました。子どもたちにどのようなことを伝えたいですか。
海のごみについて、できるだけ自分で考えてみてほしいですね。2022年11月に滋賀県の小学校と行ったオンライン授業では「海のごみは今こんな状況なんだけど、どうなると思う?」「君ならどうする?」と尋ねてみました。そうしたら、「ごみが落ちていたら拾う」という答えから、「大統領に言ってごみを捨てない法律を作ってもらう」「ロボットを造ってなんとかする」という答えまで、さまざまな回答が返ってきて。私が答えを出すというより、子どもに考えてもらって、解決策を引き出すようにしています。
今後の展開について聞かせてください。
ビーチクリーンと「Precious Plastic」に加えて、海のごみ収集・処理の事業化、山に埋め立てられるごみの燃料化、資源化についても何らかのアクションを起こしていきたいです。
オランダで生まれた「Precious Plastic」ですが、オランダではチームを組んで、それぞれのスキルを生かして機械を改良したり、オリジナル商品を作ったりと、みんなでわいわいやっているんですよね。環境問題というと深刻なこと、やらなければいけないことと受け止められがちですが、私はオランダのように楽しく、おしゃれに面白く、子どもたちも参加できるような空間を作りたいです。
そこからさらに、まちのごみを収集するように、海のごみを収集・処理する仕事を作らなければいけないと考えています。現在はボランティアでごみが収集できていますが、このまま海のごみが増えていって、沿岸部の地域の高齢化や人口減少が進めば、収集が追いつかなくなります。そうしたら、私たちの子どもや孫は、海で安全に遊べなくなってしまうんです。
丹後の海は、夏になると波がしーんとして、透き通った海になります。しかし、冬になると砂浜にごみが流れ着きます。これもまた現実です。でも、海ごみがあるからこそ、今起こっているごみ問題や環境問題に気づくことができました。丹後地域は「海の京都」と呼ばれています。海がきれいな時と汚い時、そこに対してアクションしているまちの人がいれば、海のことを学べるまちになります。私はさまざまな活動を続けながら、丹後を世界一海のことを学べるまちにしていきたいです。