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個人 2023.5.8

三津漁港でビーチクリーン活動。海資源の有効活用を通して、海ごみの問題を身近に考える

澤 佳奈枝さんは、自身が生まれ育った京丹後市網野町三津区で、2020年に「翔笑璃 (とびわたり)」を創業しました。三津漁港を拠点に、三津の海を巡るシーカヤック体験と、コーヒーショップ「三津の灯台珈琲」を主な事業として運営しています。また、丹後の仲間と共に地域のビーチクリーンなどの環境保全イベントを開催し、地域内外からの参加者に海ごみや生活ごみについて考えるきっかけづくりも行っています。「私が海を拠点に事業を行う以上、海ごみの存在は切っても切り離せないもの。三津の海のきれいなところもそうでないところも知ってほしい」と話す澤さんに、現在の取り組みや今後について伺いました。 

翔笑璃代表 澤 佳奈枝さん

生まれ育った小さなまちの美しさと現状課題を知ってほしい

事業の中でSDGsを意識して取り組んでいることはありますか。

いくつかのサービスを運営していますが、共通して大切にしていることは、「観光地」としてのきれいな面だけを見てもらうのではなく、海ごみの現状を知ってもらえる入り口にすることです。

まず、翔笑璃の事業のメインであるシーカヤック体験は、三津漁港離発着でいくつかのポイントを巡るツアー型にしていて、その中の一つに海ごみがたくさん溜まっている小さなビーチに寄ってビーチクリーンをしてもらう時間を設けています。そのビーチには、普段の生活では見ることのない大きな浮きや魚網のほか、身近なペットボトルや靴、歯ブラシなどありとあらゆる生活ごみが漂着しています。それを見たお客さんは皆、「こんなにきれいな海に、これだけの海ごみがあるなんて…」とショックを受けながら、拾えるごみを袋に集めてくれます。

それからコーヒーショップ「三津の灯台珈琲」では、使い捨てカップでのドリンク提供はしておらず、店内用のマグカップや、漁港内散策などテイクアウト用にオリジナルのタンブラーを使用しています。小さなことですが、できる限り廃棄するごみを削減することを実行してみようと始めました。

コーヒーショップ「三津の灯台珈琲」
テイクアウト用に制作したオリジナルのタンブラー

ハーバリウム体験などには、海ごみや貝殻なども有効活用されていますね。

海辺の散策で拾ったシーグラスや小さな貝殻をお土産として持って帰ってもらえるように、ハーバリウムをつくる体験も行っています。ハーバリウムボールペンもつくることができ、こちらは替え芯を利用することでいつまでも使用することができるものを採用しています。シーグラスはきれいなものとして扱われることが多いですが、もともとは海ごみとして漂流したガラスです。そういったことも制作途中にお客さんとお話して、持ち帰った先でも使ってもらうことで三津の海と海ごみのことを忘れないでもらえたら、という想いがあります。

海辺で拾ったシーグラスや小さな貝殻
拾ったシーグラスや貝殻を使ってハーバリウムボールペンなどを制作

ビーチクリーンやSDGs関係のイベントの企画・開催の経緯は。

京丹後市には昔から、海の近くにたくさんの旅館や観光施設があり、漁業関連の仕事をしている人や、近年では地域おこし協力隊として自然環境を守る活動をしている人もいます。事業形態は違っても、海という資源を利用している人たちはどこかで必ず共通した海ごみの問題に向き合わなければなりません。その当事者たちで集まって、京丹後のさまざまな海岸でビーチクリーンを行っています。メンバーのみで行うのではなく、SNSで発信して参加者を集い、できるだけ多くの人に協力してもらう形で実施しています。

もう何回も開催してきましたが、親子で参加して海ごみについて考えたり、何度も参加してくれたり、中には京都府外など遠方から参加してくれる方もいて、本当に助かりますしうれしいです。海ごみを拾うという活動を通して、地域の事業者の意識が高まったり、参加者との縁ができたりと、海がきれいになる以上の良いこともたくさん起こっています。これからもこの輪が広まっていくように継続していきたいと考えています。

ビーチクリーン&コーミングのイベントも企画

自分の暮らしと想いを大切にするために行動。その中で海ごみの問題に出合う

今の仕事を始めたきっかけは何だったのですか。

私は翔笑璃を開業する前、水泳教室の運営とコーチを仕事にしていました。それはもともと「人を笑顔にする仕事がしたい」「子どもたちに大切なことを伝えたい」という想いから就いた仕事でした。やりがいはあったのですが、長時間働いたり運営方法に悩んだりと、気がついたら自分が笑顔でいることができなくなっていました。それをきっかけに、働き方や大切にしていきたいことを改めて見つめ直したのです。そんな時間の中、やってみたいと思えたのが自分を癒やしてくれた、三津の海を拠点としたマリンレジャーの仕事でした。自分がそうだったように、このきれいな海を見て癒やされて笑顔になってくれたらいいなと思ったのです。そこからシーカヤックのインストラクターの勉強をするために沖縄へ渡り、2020年に戻ってきて開業しました。

澤さんにとっても海は大切な場所だったんですね。もともと海ごみの問題にも関心があったのですか?

海ごみに関心を持ったのは、今の仕事を始めてからです。海のあるまちで育ったので、もちろん海ごみの存在は知っていましたがどこか他人事でした。ところが、三津漁港で仕事をしていると、海が荒れる日にはたくさんの海ごみが漂着します。シーカヤックで海を巡れば、海ごみが絡まった海藻の隙間を泳ぐ魚や、手が付けられないほどたくさん溜まった海ごみを目にします。当たり前のことではありますが、この場所を仕事のフィールドにしている以上、無視できないものだと改めて思い知りました。

最初は一人でごみ拾いをしていましたが、その様子を度々SNSに掲載していると「次はいつごみ拾いするの?」「手伝うよ」と友人・知人が連絡をくれて、一緒に拾い始めました。それがどんどん広がったのが、今のビーチクリーンの活動です。私の活動に共感して参加してくれる方々がいるからこそ、きれいな三津漁港を維持することができていると思っています。

三津漁港を中心としたイベントを仲間らと企画し、海ごみを利用したワークショップも行った

「自分には何ができるのか」という視点を持つきっかけになれば

事業やビーチクリーンを通して課題に感じていることはありますか。

ビーチクリーンをすれば、その時だけはきれいになります。ですがそのごみは、海から山(廃棄物最終処分場)へ移動しているだけですし、海が荒れればまたたくさんの海ごみが漂着します。それは京丹後だけの問題ではなく世界全体の問題で、漂着物を無くすことは難しく、ビーチクリーンはごみを無くす根本的な解決方法ではありません。

それでも、人々がこういった現状を知って、日常生活で「自分には何ができるのか」という視点を持つことが大切だと考えています。私には海ごみの根本解決に働きかけるような大きなアクションはできませんが、知ってもらう入り口になりたいと思っています。

身近にできることはどんなことがあると考えていますか。

日常生活でできることは本当にたくさんあります。再利用できるものを採用し使い捨てを減らすこと、直しながら長く大切に使えるものを選ぶこと、環境にやさしい洗剤を選ぶことなど、小さなことの積み重ねです。私もまだまだ知らないことやできることがたくさんあると思っていて、来てくれるお客さんが「こんなことやってみたよ!」と教えてくれるととてもうれしいですね。特別なこととしてではなく、いかに日常の中で行動できるかが大切だと感じます。

それから、自分たちの活動を発信していくことの重要性も感じています。人手が必要だからという側面もありますが、海を大切にしたいという想いに共感して繋がることが、継続や想いの広がりには不可欠だからです。そうして徐々に縁を繋いで、海や環境に優しい人が集う場所になればと考えています。

赤い灯台がシンボル・三津漁港(網野町)

三津の海を、人に愛され美しいまま残る場所にしたい

これから先、挑戦したいことはありますか。

2023年で翔笑璃は4年目を迎えますが、大きなことに挑戦したいというよりは、より日常の出来事に焦点を当てて、お客さんが喜んでいただけること、海に優しいことを考えて実施・継続していきたいと考えています。例えば、ハーバリウムの商品レパートリーを増やしてさらに手に取ってもらいやすくしたり、店内をDIYでより快適になるよう整えたり。そうすることで、たくさんの人がここへ来て、この場所と活動を知って三津の海を好きになってくれる。さらに、その人たちが海ごみについて考えて暮らすサイクルが生まれると思います。私にできることをして、たくさんの人に愛され、美しいまま残っていく海にしていきたいです。

この記事に関する目標

  • 11.住み続けられるまちづくりを
  • 12.つくる責任つかう責任
  • 14.海の豊かさを守ろう